たかゆうの読書日記

本が好きです。読んだ本を中心に、映画・マンガ・テレビなどについても言及できればと思います。

『広辞苑』が完璧に正しいなんて思っちゃいけない

ちょっと憤りを覚えている。

『広辞苑』の件だ。事の発端は『広辞苑』に掲載されているLGBTだった。

『広辞苑』ではLGBTを「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」と記載していたが、LGBTと性的志向は関係がないことが指摘される。LGBTの「T」はトランスジェンダーの頭文字。トランスジェンダーは、心と体の性が一致しないだけ。

たしかにまったくもって大きなミスだ。今すぐにでも改訂すべきだと思う。

さらに『広辞苑』の「しまなみ海道」の項目でも間違いが発覚する。地元の商工会は「広辞苑に間違いがあるのかと驚いた」と発言しているという。

しかしだ。

『広辞苑』だって間違いを犯す。

僕が憤りを感じているのは、なんで『広辞苑』が完璧に正しいと思っているの?ということだ。そもそもの前提がおかしい。

だってさ、収録されてるの25万語だよ。それを人間だけでチェックするのって限界があるって。そりゃ1つや2つのミスは出るだろう。

『広辞苑』だって努力してる

『広辞苑』は10年ぶりに改訂され2018年1月12日、第7版が刊行された。

『広辞苑』もこの時代に辞書を出す意味は模索していて、公式サイトにもその決意が見える。

  • 「収録されている項目を分野ごとに抽出し、各界の専門家が全面的に校閲。」
  • 「言葉の根本の意味をきちんととらえた上で、歴史的な意味変化に沿って語釈を与えるのが『広辞苑』の流儀。」
  • 「ネットで何でも検索できる時代だからこそ、言葉の使用場面を越えた中心的な意味を一読して把握できるように、余分な言葉をそぎ落とし洗練した語釈を付しました。」

kojien.iwanami.co.jp

そう、各界の専門家によってジャンルごとに校閲し、 日本語の基礎を見直すために歴史的な意味に立ち返って総点検し、 時代の流れに沿って新たに1万語を収録したわけだ。

このあたりは三浦しをん『舟を編む』や『辞書を編む』、『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』などを読むといい。辞書作りのすさまじさが分かる。

『広辞苑』はがんばってる。

だから、この問題は大きく2つの原因があると思う。

  1. 『広辞苑』が時代の変化に対応しきれていない
  2. 受け手側が『広辞苑』に幻想を抱きすぎ

『広辞苑』が時代の変化に対応しきれていない

いまは一億総校閲者時代になっている。

これまでの『広辞苑』だって、間違いがもっとあったのかもしれない。それは見つけても声を上げる場がなかった。それが今はSNSなどで、すぐに間違いを指摘できる。

そして間違いをすぐに反映できればいいけど、紙媒体だとそれができない。そこに『広辞苑』の限界がある。

『広辞苑』が時代に対応しきれていないのは、7版での新収録語をピックアップすると分かる。

  • LGBT
  • ブラック企業
  • 自撮り
  • アプリ
  • ツイート
  • スマホ

ものすごい今さら感がある。『広辞苑』が定番になった新語を収録するという意図があるにしてもだ。

『広辞苑』は、修正するのが大変だし、スピード感がないし、あと説明する文字数が足りない。

ありゃりゃ?? なんか紙媒体とウェブ媒体の比較になってきた。だいぶ言い尽くされた話。

辞書においてはというか、『広辞苑』があまりにも特別なんだろうね、これは。「2」の幻想につながる。

これまでだって、『広辞苑』にはミスがあった。

有名なのは、将棋の始祖の名前が修正されなかったり、台湾を中国領域としていて国際的な問題になったりもした。

それなのに、『広辞苑』は神聖なる存在になっていたわけだ。

『広辞苑』は新解さんになればいい

で、提案したい。

『広辞苑』は『新解さん』を見習うべきだと。

『新解さん』は言わずと知れた国語辞書界のやんちゃ辞書『新明解国語辞典』のこと。

その一部を見てみると…。

動物園:生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀なくし、飼い殺しにする、人間中心の施設。

「人間中心の施設」って、ブラックユーモアが効いてる。

恋愛:特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。

肉的な一体感! そして恋愛の揺れ動きを見事に表現している。

号泣:(ふだんは泣かない大の男が)天にも届けとばかりに悲しみ泣くこと。

泣いている場面が目に浮かぶ表現!

ギャル:[流行に敏感で、性的にもあけっぴろげな]若い女の子[原宿-]

いやいや、偏見がすぎるでしょ!?

ごろつき:弱みを持つ人をいつもねらいながら、ゆすりやたかりを働いたりする悪い奴。[無職・住所不定であることが多い]

そうなのか???

公僕:権力を行使するのではなく国民に奉仕する者としての公務員の称。[実情は、理想とは程遠い]

ジャーナリスティックになってきた。

凡人:自らを高める努力を怠り、功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人

ツラい…

どうだろう? 新解さん、主観たっぷりではないか。

『新明解国語辞典』は、偏見とも紙一重な表現もある。だけれど、主観的な辞書だとみんなが認識していれば、その前提で読むことが可能になってくる。

『広辞苑』も主観をもっと盛り込んで、新解さんになってみてはどうだろう?

『広辞苑』は今回の件で、訂正を検討しているそうだが、やめたほうがいいと思ってて…。だって、ほかにもミスがあるからだ。絶対にあるよ。このままだと、訂正版を出してもまたミスの指摘があり、さらに訂正版を求められることになると思う。

もちろんLGBTの話は事実が違うし、差別につながる可能性もあるから、対応してほしいけど。

いっそのこと、『広辞苑』の間違いを、サイト上で全部公開して、検証してみてはどうだろう?

これ盛り上がりそうだし、それこそ辞書のプロのすごさが分かることにつながる。素人VS言葉のプロたち。

そろそろ『広辞苑』が100%正しいなんて思っちゃいけないんだ。作り手も、受け取る側も。