テーマはパンデミック論。
『100分de名著』のスペシャル版で、パンデミックにまつわる本が紹介されていました。今こそ読んでおきたい本が厳選されていますので、まとめていきます!
『パンデミック』斎藤幸平さん推薦本
『パンデミック』は、スラヴォイ・ジジェクによる社会評論です。ジジェクは、マルクス主義を社会に実現すべきという思想を持った哲学者。
エッセンシャルワーカーには偏りがあり、資本主義が死んでいてゾンビ化していると指摘しています。
コロナでも、エッセンシャルワーカーは感染リスクを負って働くか、失業するかの2択に陥っている。社会の弱い人が犠牲になっている。
ジジェクは、哲学者のラカンを例にとります。フロイトの病にかかった息子の話があり、父が看病するが息子は亡くなります。父は夢の中で息子と会うが、目を覚ました。これをジジェクは、トラウマに向き合うことに耐えきれなかったからとして、パンデミックとも重ね合わせました。いまの資本主義の限界を考えるにはうってつけの内容。
『ダロウェイ夫人』小川公代さん推薦本
パーティーを開く、ある1日の物語。ヴァージニア・ウルフは、意識の流れに入る手法で描く作家。『ダロウェイ夫人』では、インフルエンザという記述が出てきますが、スペイン風邪を指しているそうです。お墓が出てきたり、死者を弔う鐘の音が聞こえてくる。
仰臥人の視点、直立人の視点といったエッセイもあって、ウルフの視点の巧みさを感じさせます。
番組で高橋源一郎が触れていた『仰臥漫録』は読みたいと思いました。正岡子規が激痛のなかで書いた日記で、「外にある花が見られたら死んでもいい」と弱者の視点での文章がすごいらしい。
『大杉栄評論集』栗原康さん推薦本
関東大震災のなかで38歳で殺された大杉栄の評論集。
吃音持ちでアナキストだった大杉の生き方はリベラルで、当時の支配者からしたらイヤがられていたのでしょう。
大杉は、奴隷の心理状態を指摘し、恐怖のうち服従していく流れからの脱却を考えるべきとします。
『白の闇』高橋源一郎さん推薦本
98年ノーベル文学賞受賞したサラマーゴによる小説作品。
信号待ちをした車が発進しない。運転手は失明をしてしまっていた。その後、車泥棒や病院の医師も失明…。謎の感染症が広がっていたことがわかる。
そこから政府は隔離政策をとって、精神病院は惨状を極めてしまうんですね。
カミュの『ペスト』で描かれなかった感染した側の話を、サラマーゴは描きます。哲学者アガンベンの「例外状態」にも通じる話。
医者の妻が英雄になるのかならないのか、「目が見えないほうがどれだけいいだろう」という嘆きは、身につまされます。
白の闇とは?という番組内での考察もすばらしかった。見えているのに見えてないものがある。いや見ないふりをしているだけかもしれない。女性への押し付け、社会の矛盾から目をそらし続けている。それが白の闇。
パンデミック前に戻るのではなくさらなる前進を
4冊とも示唆に富む内容で、パンデミック前に戻るのではなく、パンデミックであぶりだされた現実を直視すべきだと実感しました。