たかゆうの読書日記

本が好きです。読んだ本を中心に、映画・マンガ・テレビなどについても言及できればと思います。

ジブリ鈴木敏夫のすごさとは?「仕掛ける力」「作品を生み出す力」を分析する

鈴木敏夫の生き方にあこがれてしまう。

いまの道楽な感じがいいじゃないですか。「実はね…」ってジブリ作品の裏話をする。ラジオやインタビューでの語りかけ口調もいい。

数々のヒット作に関わってきて、ジブリ作品は歴史に残っていくわけで、最高じゃないですか。コンテンツ制作に関わるうえで、理想だと思う。

でも鈴木敏夫のなにがすごいのか、よくわかっていなかったんです。プロデューサーって、なにをしている人か見えづらい。

だけど、鈴木敏夫の本やインタビューを読んでいると、いやはやめっちゃ仕掛けてる。もちろん宮崎駿といった一流作家の作品力が前提であるものの、鈴木敏夫がいたからこそ、ジブリ作品がここまでヒットしたのは間違いないと思える。

鈴木敏夫のすごさって「仕掛ける力」だと思うんですね。「作品を届ける」「作品を生み出す」の両側面から見ていきたいと思います!

-- 『君たちはどう生きるか』が米アカデミー賞・長編アニメーション賞を受賞! ゴールデングローブ賞のアニメ映画賞も受賞していたので、海外での注目度がわかります。

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作品を届ける力(コピー、タイトル、ビジュアル)

ジブリ作品ってめちゃくちゃ宣伝に力を入れていたんですね。『君たちはどう生きるか』はいっさい宣伝していないですが。

鈴木敏夫は、宣伝の基本として「コピー」「タイトル」「ビジュアル」の3点セットと言っているので、まずはそこにフォーカスしてみます。

コピーについて

ジブリ作品はキャッチコピーが印象的ですよね。鈴木敏夫は、映画の旗印として、キャッチコピーをとらえていて、それだけ重視しているんです。

制作する人、宣伝する人、興行する人が、その作品の本質を理解し、一致団結して一つの方向に向かう。そのための旗印がキャッチコピーだった。 『ジブリの仲間たち』鈴木敏夫

『風の谷のナウシカ』からして、キャッチコピーのこだわりが詰まっています。広告代理店から「人間はもういらないのか?」というキャッチコピーの提案があったそうですが、「作品テーマを曲解している」と鈴木敏夫はバッサリ。

結局は、

  • 「少女の愛が奇跡を呼んだ」(宣伝プロデューサーの徳山雅也案)
  • 「木々を愛で虫と語り風をまねく鳥の人」(鈴木敏夫案)

で展開しました。

そして、『となりのトトロ』『火垂るの墓』の同時上映のとき、糸井重里を起用します。はじめはキャッチコピーを徳間書店と新潮社の関係者で作ろうとしたが、まったくいい案が出なかったそうです。もうまとまらない。

そこで当時、数々の商品をヒットに導いたコピーライターの糸井重里に依頼することを決めたわけです。

そこから糸井重里によって数々の名コピーが生み出されていきます。

  • となりのトトロ「このへんないきものは まだ日本にいるのです。たぶん。」
  • 火垂るの墓「4歳と14歳で、生きようと思った」
  • 魔女の宅急便「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」
  • もののけ姫「生きろ。」

どれも記憶に残りますよね。

なお『千と千尋の神隠し』では、鈴木敏夫によって宣伝の方向性が変わっていきました。裏主人公がカオナシだと、鈴木敏夫が見抜いたんですね。パッと見は、千尋とハクの物語。でも宮崎駿が描きたかったのはカオナシだと。欲にまみれて増大していく。実際にカオナシの登場時間をカウントすると、千尋の次だったんですね。

「トンネルの向こうは、不思議の町でした」がはじめのコピーだったのですが、第2弾コピーではカオナシを押し出すことに決めます。東宝宣伝プロデューサー市川南と、「生きる力を呼び醒ませ」というコピーを作り上げて宣伝していくんですね。カオナシをビジュアルに使いながら。

この件について、鈴木敏夫は作り手が描きたいことを見抜く大切さを語っています。

作家は犯罪者、プロデューサーは刑事」「作り手は本当に自分が描きたいことを作品のなかに隠しているものなんだ。でも、それが観客にとっていちばん観たいものだったりする。それを見抜く目を持たなければ、プロデューサーはできないよ 『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた真似と整理整頓のメソッド』石井朋彦

タイトルについて

タイトルについては、『風の谷のナウシカ』には驚きのエピソードがあります。東映の宣伝プロデューサーが、『風の戦士ナウシカ』というタイトルにしようとしてきたんですね。『風の谷のナウシカ』では売れないと。鈴木敏夫は大喧嘩をした。タイトルは作品全体に関わること。自分たちがやりたい作品を守ると。

宮崎駿に対しても容赦はありません。『もののけ姫』です。宮崎駿ははじめは『アシタカ戦記』にしたがっていたんですね。それをテレビ放送で『となりのトトロ』が流れたときの予告で、『もののけ姫』と発表してしまったそうです。間違いない確信があったからこそ、押し通せた話だよなと思います。

ビジュアルについて

どの作品も印象的なビジュアルが使われていますよね。それも伝えるべきことはなにか、バランスを考えているからこそ。『魔女の宅急便』の宣伝ポスターを見てほしいのですが、パン屋でキキが座っている場面が使われていますよね。魔女がホウキで空飛んでいるところを使いたくなりそうですが。

だけど「魔女」も「宅急便」もタイトルで伝えているわけです。鈴木敏夫は、コピー、ビジュアルにその要素はいらないと判断したといいます。思春期を伝えるコピーとビジュアルを考えて、あの宣伝ポスターになったそうです。

作品を届ける力(宣伝力)

とにかく宣伝にかける力がものすごい。製作委員会方式やタイアップを仕掛けていたことがわかります。

製作委員会方式をはじめた

映画作りの資金調達のために、さまざまな企業が出資する製作委員会方式。はじまったのは『風の谷のナウシカ』といわれていて、徳間書店と博報堂がいっしょになって、出資したことから。この名付け親が、鈴木敏夫なんですね。

タイアップをはじめた

いまや企業と映画作品のタイアップはよく見る方式ですよね。タイアップをはじめたのは、ジブリが初めてだったそうです。

『天空の城のラピュタ』で、徳間の要請で電通が代理店として入りました。電通は映画にクライアントをつけて、ラピュタキャラや映像使用の条件リストを提示。これはけっこう揉めて、ロゴしか使用できないとか、ラフ絵でのジュースパッケージを使うとかになりました。ただこれがきっかけで、『魔女の宅急便』では、ヤマト運輸のタイアップが決まって作品作りが始まったし、協賛各社とのタイアップはその後も続きます。

ヒットの法則を見つけた

ジブリ作品は宣伝のために、いろいろな仕掛けをしていたことがわかります。

たとえば、『おもいでぽろぽろ』では6つの戦略を仕掛けました。

  1. 新聞広告やテレビなど東宝が行う通常の映画宣伝
  2. 関係各社が自社媒体で宣伝(日テレなど)
  3. 協賛各社によるタイアップ(カゴメ、ブラザー工業)
  4. 試写会
  5. 各媒体のパブリシティ
  6. イベント・キャンペーン

そして圧巻なのが『もののけ姫』です。制作時は不安視されていたんですね。時代劇であること、制作費がとんでもなくかかることから、反対が根強かった。制作費は最低16億円、ペイラインは配給収入60億円。関係者が集まって、この企画をやめさせようとする動きもあったそうです。

だけど鈴木敏夫は「宣伝費=配給収入の法則」がわかっていた。すなわち宣伝費をかければかけるほど、ヒットするというわけです。そんな雑な計算と思うものの、まずは劇場を確保していきます。東宝劇場に頼んで、もののけ姫中心の編成にしてもらった。そして60億円分の宣伝を仕掛けた。GRPというCM出稿の数字を見ながら、日本生命とタイアップ12億円などさまざまな方法をとっていったんですね。結果は、興行収入200億円をこえる特大ヒット!見事、勝負に勝ったわけです。

『もののけ姫』をこのタイミングでやるべき理由もあったんですね。宮崎駿の年齢(当時56歳)、スタッフの成熟度、予算を集められる状況がそろったと思っていたそうです。

作品を生み出す力

作品を生み出すうえでも、影響を与えていました。

トトロの登場タイミング

『となりのトトロ』の絵コンテを見て、はじめては冒頭からトトロが出ずっぱりだっそうです。そこで鈴木敏夫が「こういうのは半分のところから出るんじゃないですか?」と指摘。宮崎駿は「わかった!」と言って、冒頭を考えていったといいます。

さらに鈴木敏夫が「サツキみたいな完璧な賢い子は将来ぐれる」発言。宮崎は激怒したものの、サツキを泣かせるシーンを入れました。「鈴木さん、これでサツキは不良にならないよね」。

もののけ姫のラスト

『もののけ姫』のラストは、タタラ場は炎上せずに、尻切れトンボ感があったそうです。そこで鈴木敏夫が「エボシを殺したらどうか?」と提案。宮崎駿は受け入れるも、エボシは殺せないと腕を失うのみにしました。なお、この絵コンテ修正で15分伸びてしまう事態に。ジブリの月間生産量は5分だったため、これだけで3ヵ月の遅れ。カリオストロの城を制作したテレコムのスタッフが駆けつけて、1ヵ月で制作したそうです。

風立ちぬを提案

宮崎駿はポニョの続編を考えていたそうですが、『風立ちぬ』を鈴木敏夫が提案しました。戦闘機が好きで戦争が嫌い。なぜ彼はそうなったのか?知りたい。そして戦闘シーンを封じられた中でどう作るのか、興味があったといいます。

鈴木敏夫の仲間を作る力

鈴木敏夫の宣伝手法で大切なことはなにか?ラジオで話していたのがおもしろくて、とにかく仲間を集めることを意識していたといいます。

徳間の社員1600人、博報堂グループ8000人、日テレ関係で15,000人、その人たちの家族も見るとしてこれだけで5万5千人くらいになる。身近な人たちを仲間だと考えて、どんどん増やしていくんですね。

僕にとって、何が楽しいって人と付き合うことほど楽しいことはない。好きな人ととことん付き合う、好きな人に囲まれて仕事をする、これは最高じゃないですか。『ジブリの仲間たち』

仲間を集めて仕掛けて仕掛けて仕掛けまくる。できることはすべてやるという気概を感じますよね。のらりくらりとしていたら、ヒット作って生み出せないんだなと。鈴木敏夫の仕掛け力、すさまじいです。

もちろんクリエイティブへの理解もあるわけで、このバランスが鈴木敏夫のすごさだと思います。

ぼくの場合は出版社出身ということも関係しているけれど、編集者型のプロデューサーですね。編集者型のプロデューサーが何かといえば、一人の作家に作品を作ってもらうこと。これがいちばん大きな仕事ですね。それを行うには作家との相性もあるけれど、作家が何かを作ろうとしたときに最初の読者になること。この姿勢がもっとも重要なんです。では最初の読者になるためにすることは何か。ポイントとなるのは、作家が何か言ってきたときに相槌をどう打つのか。そのタイミングを間違えると、作家と編集者の関係はうまくいかなくなります。相槌をうまく打つには、その作家の教養の元を知っていて、自分も同様の教養を身につける必要があるんです。 『仕事道楽 スタジオジブリの現場』

なにより大事なことを鈴木敏夫の言葉から引用します。

目的のためには手段を選ぶジブリの目的はヒットを量産することでも、お金を設けることでもないからです。映画を作り続けるためです。その順番だけは間違えないように、30年間ずっと注意してきました。『ジブリの仲間たち』

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